3.
第三話 テーブルゲーム研究部
「…………ありません」
はー。負けた。私、将棋うまくないのかな。なんだろう、途中で面倒になっちゃうんだよね。読むの。自分の駒動かしてさっさと攻めたくなっちゃう。向いてないのかな。でも、悔しいな。
私、竹田杏奈。高校1年生。みんなにはアンって呼ばれてる。いとこのお兄ちゃんは将棋の天才で、私も自分で言っちゃうけど、そこそこアタマはいい方だからある程度、頭脳戦のゲームは強かった。
でも、ダメね。将棋は向いてないかも。攻めたい攻めたいって気持ちが前に出過ぎて読みが疎かになるのね。わかってはいるの。もう少し先まで考えなきゃって。でも、それが出来なくて。
それでも同級生の中では一番強かったんだけど、将棋部の上級生には敵わない。
「やっぱ負けるとつまんないなー」と、私は当たり前のことを独りで呟いていた。
なんか、将棋にこだわることないかな。オセロとかチェスにも手を出してみようかな。自分の性格に合ったテーブルゲームがあるかもしれないし。
この学校の将棋部は強くて将棋部として知名度を上げていたが本来、この部活動の名前はテーブルゲーム研究部であり他のゲームも部室にたくさんあるのだ。私は久しぶりに倉庫を開けて別のゲームを見ていた。軍人将棋にダイヤモンドゲーム、モノポリーなど色々なゲームがそこには置いてあった。
その中で何だか分からない書道セットのようなエンジ色をしたケースが気になった。なんだろこれ。
「よっ……と、なにこれ重っ!」
コンコン!
その時、部室の扉を叩く音がする。
「どうぞー」
「失礼します」
入ってきたのは黒髪ボブが似合う美人だった、青のリボンだから2年生だ。うちの学校はリボンが3色あって学年がわかるようになっている。今年度は1年生が赤色、2年生が青色、3年生は黄色のリボンである。正直赤が一番可愛い。私は今年ここに入れてラッキーだった。来年だったら試験を受けてすらいないかもしれない。黄色のリボンはピンとこない。少なくとも、私の好きな色ではない。青もしっくり来ない。性格に合わないと思う。赤の年度だったから入学を決めたのだ。
しかし、今入ってきた2年生には、やや切長の瞳に黒髪ボブで青のリボンというクールビューティーな組み合わせが見惚れる程似合っていた。
「あなた、それ」
クールビューティーな2年生がその時急に私に近寄ってきた。
「なななななんでしょうか?」
「麻雀、出来るの?」
「へ?」
私が倉庫から出した臙脂色の書道セットのようなものは麻雀牌だった。
「や、まあ、ゲーム機でならやったことありますけど……それが?」
「私、財前カオリ。麻雀する友達を探しているの。良かったら仲良くしてくれませんか」
「え、あ、はい、よよ喜んで」
こうして竹田アンナと財前カオリの交流が始まった。
146.第八話 ドライブスルー 喫茶店『グリーン』は店舗の拡張を行った。厨房の壁側に出窓を設置してそこでドライブスルー出来るようにしたのだ。 それはドライブスルーだけが目的ではなくて、麻雀教室に来てる人にも注文の受け取りが簡単になるようにした一石二鳥のアイディアだった。 この提案はユウの思い付きによるものだ。一度、アイスコーヒーを麻雀教室まで持って行こうと思って持ち歩いていた時に渡り廊下の段差で躓いてこぼした事があり、足は痛いわ、グラスは割るわ、コーヒーはぶちまけるわ、恥ずかしいわで散々だったため持ち込むのではなくてすぐ近くに受け取り場所があればいいのにな、と思ったのがきっかけだった。 それを言うとすぐに実行に移すグリーンのオーナーたちはさすがの行動力と資金力だ。「うん! いい出窓が出来上がった! これでここにインターホンを付けてすぐ隣に扉を設置したら完成ね」「扉があることによって何かと便利にもなるし、これはいいアイディアでしたね」「簡易的なレジも設置しましょう。小銭のやり取りで時間を取られないように」「そうね、これから楽しみね。良かったわ、広い駐車場で。おかげで麻雀教室は設置されるし、ドライブスルーも出来るようになるしで夢が広がるじゃない」 その数ヶ月後。麻雀教室とドライブスルーは一気に完成する。それにより、駐車場スペースに麻雀教室がある事が自然と知れ渡り、ドライブスルーは麻雀教室の宣伝にもなったのだった。 ここまでは予想してなかったので嬉しい誤算。まだ、アンが高校を卒業していないので麻雀教室の本格的な営業開始は春からとしようと思っていたが「裏の駐車場にあるあの麻雀の教室? いつからオープンするの? 始まったら教えてほしい」という客がチラホラ出ていて、ユウとアンの麻雀教室は明らかに2人だけでやるには人気がありすぎると思われた。「どうするこれ。多分、スタッフ足らないよ」とユウがアンに嬉しい不満を言っていた。 それを見た倉住ショウコが「なによ、私もいるじゃない。3人なら大丈夫
145.第七話 次世代のスーパーヒーロー「井川さんー! すごかったです!」「『ミサト』でいいって」「あっ、そうだった。へへ……。つい、尊敬しちゃって」「ふふふ、ありがと。凄いってあれの事でしょ? 打九ダマ」「そうです。何であんな芸当が出来るんですか?」「まあ、読みよね。ああいうのは本来、同じ麻雀部の『竹田杏奈(たけだあんな)』って子の方が得意でね。今度ユキにも紹介してあげるね。まだ高3なんだけど、鋭い読みで魔術みたいな麻雀をするの」「へえーー! それは会ってみたいです!」「ね、敬語やめない?」「あ、すいませ… ごめんね」「いや、謝るこたあないケドね」 ミサトがタイトルホルダーの実力を見せつけている所、一方で財前姉妹はと言うと。こちらも難なく勝ちを重ねていた。 奥の方に記者のような人達がいるのが見える。(きっと美人姉妹なカオリたちを取材に来たに違いない) そうは思っていたものの、本当にその通りであったので、ミサトは少しだけ悔しくもあった。(私なんて新人王なのにな)「ミサトなんて新人王なのに、こっちも少しくらい取材したら? って思うよねー」 ユキがミサトの心を見透かしたようにそう言った。「そんなことないよ、カオリたちが話題性があるのは間違いないし」(まるっきり心を読まれた?! 顔に出てたのかしら? 恥ずかしいな)「私は断然ミサト派。スタイルもミサトの方がいいし。公言するけど、私はミサトの1番のファンですからね」「わかったから…… 照れるからそう言うの言わなくていいって…… 嬉しいけどさ」「ちょっと! 第1節第2節と絶好調な私のことも取材していきなさいよ!」とメグミが記者
144.第六話 狙撃 今日は女流リーグ第2節。 ミサトのことを新人王だと知った飯田ユキが今日は観戦に来ていた。(えーと、井川さんはどこかなー。あ、いたいた) ミサトの卓を見てみると、もう南2局だった。ミサトは25000点持ちの二着目。(あれ、開始15分でもう後半戦になってるんだ。早いな。ていうか井川さん25000点持ちってもしかして一度も点数動いてないの?) そうなのだ、この卓はロンの応酬で進んでおり連荘もなく、ミサトは持ち点を動かさずに南2局まで進めていた。しかし、そのように仕向けたのはミサトであり、この展開はミサトが作り上げたものだったのである。 この日のミサトは手が悪かった。なので威嚇するように仕掛けをしておいてその実テンパイしておらず、ミサトばかりを気にして警戒した結果、他の人に放銃。それの繰り返しで南2局まで失点ゼロに抑えたのだ。そのような芸当が出来るのは新人王というタイトルがあればこそ。ミサトは自分のタイトルホルダーという立場を目一杯利用した戦略を選んでいた。さすがの対応力である。 そして今、ついにミサトに勝負手が入る。ミサト手牌二三三四伍六七八九⑥⑥45 6ツモ ドラ⑥ 一萬は三着目が3巡目と5巡目に捨てていて2枚切れ。 ユキは思った(これは絶対リーチ! 最高の仕上がりです! 一気通貫目指して全力で曲げましょう!)と。 しかし、ミサトはトップ目が前巡に少考して捨てた二萬に目をやっていた。トップ目はそれ以前に5索も捨てている。ミサトの思考(5索を先に捨てていながら一萬二萬とあり、さらにそれを結局中盤で払うなんてこと、あまりないな。一萬はあと2枚しかない
143.第伍話 ミサト、自動車免許を取る 井川ミサトは自動車免許を取る事にした。高校生の時は麻雀で忙しくてそんな時間は無かったのだが、よくよく考えたら大学生になっても麻雀で忙しいし、この先どう考えてもずっと麻雀で忙しい未来しか想像がつかなかったので。いま無理矢理にでも時間を作って取っとかないと一生取らない気がしたのだ。 ミサトはこういう所がカオリたちより少し賢い。いつも未来を冷静に見据えてるのが守備力にも繋がるということかもしれない。 「井川さん『かも知れない運転』を心がけてくださいね」と教官が言う。「分かりました!『かも知れない運転』ですね。それは得意分野です!」「えっ?」「私は守備派なので」(なんのこと?)「あの見通しの悪い丁字路の先に……」「そうそう、ああいうのの先に居るかも知れないですよね。警官が」「いや、警官もそうだけど子供想定してね?! ネズミ取りイメージしながらのかも知れない運転ってどうなの?」「あっ、違いました? ポリスメンがいたら危ないなーって思ったんで。あーゆーとこで張ってジャリンジャリン点数稼ぐイメージあるんですよねー」「ジャ…… 道路交通法守ってれば大丈夫だから!」「信号が黄色ですね。速度を落として……」「タイミング悪いので脇道に逸れましょう! ここを通れば信号を使わずに目的地まで行けます」「そうですけど! でも大通りで練習して下さい」「あ、すいません。私、危険は方針で根本的回避をするスタイルでして」「今日は天気が良くないですね、こんな時はいつも以上に安全運転を心がけましょう」「いえ、今日は天気が良くないから運転はやめておきます。危ないからベタオリで」「運転はしてね?!(
142.第四話 四風偽装 その日、マナミが『ひよこ』でバイトしていると今日はユウとミサトが偶然にも同卓になった。「あら、誰かと思えばミサトじゃない。麻雀部以外で同卓したのは初めてね」「ユウもフリーで打つようになったのね。フリー雀荘はどう? 色んな人がいて面白いでしょう?」「そーね、とっても楽しいわ」 ユウの麻雀は相手がどう出るか見極めながら刀を構えるような、中間距離を得意とする麻雀だった。間合いに入れば切り捨てられるというプレッシャーが同卓者にかかる。(相変わらず、すごい存在感。何度やっても圧力がビリビリ来るわ。まるでサムライね…… だが!)「ポン!」 受けの構えをしつつもその間合いへと飛び込んで行くミサト。(マナミならバチバチにぶつけて喧嘩を挑むんでしょうけど、私は受けつつ進む柔の雀士だ。危険度の高い牌を出さない方針で前に進む!) ミサトの麻雀は受けの構えでチャンスを掴んだらドガン! と一本の柔の麻雀。 マナミの目にはまるで日本刀を構えたユウの懐に柔道家のミサトが踏み込んで行ったような幻覚が見えたという。そしてその雰囲気は店長も感じていた。「マナミさん。あの井川さんの上家に今座ってる若い子は誰なの? さっき話してたけど」「ああ、あの子は佐藤優。私たち姉妹やミサトと一緒に高校生の頃から毎日麻雀を研究した仲間です。そう言えば私が最初に彼女を誘ったんでした。懐かしいな。今ではタイトルホルダーにまでなっちゃって」「研究って、例の『麻雀部』って呼んでるやつかい? え? タイトルホルダー?!」「そうです。それ、彼女の家のことなんですよ。厳密にはスグルさんの部屋。タイトルは最近新しくできたUUCコーヒー杯ですね。あれの記念すべき第1回を優勝したの
141.第三話 夢への道を一歩ずつ カオリはその日、仕事が終わってからアンとショウコの働いてる喫茶店『グリーン』に寄り道してた。例の麻雀教室計画はどうなってるかなと思ったから。すると、なんと既に店舗(なのか?)があるではないか。店の中から外に続く通路が増設されており、渡り廊下を通ったその先にプレハブ小屋があった。そしてその中には一台の全自動麻雀卓がある。アンとユウはここで麻雀を教えつつ、ネット麻雀の牌譜を添削するなどしていくようだ。「順調に準備が進んでいるようね」「はい! オーナーが支援して下さって、高校卒業後はここで正社員にしてくれると約束もされてるし。驚くほど順調です!」「それは良かった」 ユウとアンの夢は叶っていきそうだ。あと足りないのは集客のための説得力ある実績作りだけだ。そればっかりは一朝一夕には手に入らない。 少女達は夢への道を地道に一歩ずつ進んでいく。(アンたちはすごいね。ねえ、woman)《ですねえ、毎日部室に集まっていた頃がもう今では懐かしいですね》(今日はこのあと予定もないし、久しぶりに部室に行こうか)《いいですね! そしたらユウに連絡しておきますか》 カオリは麻雀部のグループトークに書き込みをした。“今から行くよー”“開いてるから勝手に入ってー” すると野本ナツミからも反応があった。“私もいこーっと” 三人麻雀を主戦場とするナツミが来るのならということでその日はナツミとユウとカオリでヘトヘトになるまで三人麻雀をした。 その後、仕事を終えたアンとショウコが合流したのでユウは「私、これ以上はもうダメ。体力ゲージゼロだわ。ちょうど2